近畿外来小児科学研究グループ(KAPSG)研究計画書


【テーマ3】ムンプス難聴の発生頻度調査

−ムンプス後の難聴は小児科で見つけよう−

1.はじめに

     ムンプスは日常診療でしばしば見られる疾患であり、合併症として脳炎・髄膜炎、睾丸炎、などを起こしうる事は、一般にも比較的知られている。しかしムンプスにより難治性の高度難聴を発症しうることは、頻度が少ないと考えられていた事もあり、あまり啓発されていない。

     従来ムンプス難聴の発生頻度はムンプス患者15,00020,000人に1人程度と考えられていたが、近年母集団が小さく局地的な調査ではあるが、250400人のムンプス患者に対して1人の難聴発生が報告されており、従来考えられていたよりも頻度の高い疾患ではないかと推測される。 ムンプス難聴では多くが一側性のために特に小児では発見が遅れたり、聴力障害を起こした際は直接耳鼻科を受診するために、小児科で気づかれないこともあると考えられる。

     そこで小児科医の共同調査として、ムンプスと診断した患者すべての聴力予後をprospectiveに調査し、ムンプス難聴の発生頻度の貴重なデータを得たい。

     さらにこの研究を行なうことにより、ムンプスにより難聴を起こしうることを一般に啓発する手立てとなると考える。

     また、耳鼻科ではムンプス難聴は改善が期待できないものとされているが、ムンプス罹患後のすべての症例で聴力を調べることにより、軽症あるいは一過性の聴力障害もみつかる可能性が期待される。

           将来はより広範囲での調査、そしてワクチン接種例との比較調査へと発展させたい。

2.目的

      1.ムンプスと臨床的に診断した患児の聴力予後について調査し、ムンプス難聴の発生頻度を検討する。

      2.ムンプスの合併症として一側(まれに両側)聾があることを、小児科外来から社会に啓発する。

      3.参加者の交流、情報交換の機会となる。 ムンプスの診断法、ワクチンの是非などさまざまな意見交換が期待される。

3.方法

   ・対象は、参加医療機関で調査期間中にムンプスと臨床診断した20歳以下の症例すべてとする。 ムンプスの診断基準は、感染症サーベイランスと同様に「症状や所見からムンプスが疑われ,@片側ないし両側の耳下腺またはその他の唾液腺の突然の腫脹と2日以上の持続、A他に耳下腺腫脹の原因がないこと」をもってし、だれもが気軽に研究に参加できるように検査は必要としないこととする。

   ・ムンプスと診断したときに、保護者に難聴の可能性を説明し、調査への協力を求める。本調査に参加不能の場合には、別紙のムンプス難聴調査患者一覧表(以後、「患者一覧」と表記)に、初診日、年齢,性別、イニシャル、ワクチンの既往、調査に不参加の理由を記入する。調査への協力の同意を得られた方には別紙説明書と調査票(B5あるいはハガキ)を渡し、指こすり法による簡便な聴力検査を指導する。指こすり方による検査が難しい低年齢児では音の出るおもちゃなどで反応を見る方法でもよい。同時に、「患者一覧」に対象患者として登録記載する。

   ・他の原因も含めてあらかじめ聴力障害がないかを確認するために、初診時には必ず指こすり法により聴力を確かめておく。

   ・定められた期間(2週間) 家庭において聴力のチェックをした後に、当該医療機関に調査票を返送してもらう。終了頃に再診を指示、あるいはFax送信してもらうなどでデータを確実に回収する。 回収した調査票は「患者一覧」にデータ転記の後、医療機関において調査終了時まで保管するものとする。なお調査票が回収できない場合は、必ず電話により聞き取り調査を行なって、聴力障害の有無を確認し、その旨を「患者一覧」に記載する。

   ・参加医療機関で「患者一覧」に記載した対象患者のデータを、3ヶ月ごとに世話人(橋本)に報告する。なるべく参加者にメールで配布するExcelのフォーマットに記入の上返送されたい。e-mailが使用できない場合には、郵送、Faxでも可とする。

   ・経過中に聴力障害が疑われた場合は、直ちに血清検査(ムンプスIgMおよびIG抗体)を行なったうえで耳鼻科に紹介し、その診断の結果と予後を別紙、ムンプス難聴発症者調査票にて報告する。 なお耳鼻科への紹介に際しては、研究グループからの紹介・依頼書(別紙)をご利用ください。

   ・対象患者として登録後に、ムンプスではなく反復性耳下腺炎と判明した場合には、その旨報告していただくことで、その症例を除外する。(データ報告前であれば、単に削除)

   ・主検討対象は、臨床的にムンプスと診断した症例だが、調査中に兄弟などで難聴を発症し、不顕性感染によるものと考えられる場合には、血清検査も行なった上で備考として報告をお願いします。

  ・データの価値を高めるためにも外来受診されたムンプス患者の100%でデータを取ることを目指したいと思います。

4.調査期間

      調査期間は3年間を予定し、開始前にパイロットスタディーを行なう。

プロジェクトリーダー 橋本裕美

連絡先:〒567-0018  大阪府茨木市太田3-21-17

        橋本こどもクリニック             橋本裕美

           Tel.072-631-9001                     Fax.072-631-8989

           E-mail: hiromi@reasoning.org