おたふくかぜワクチン啓発ポスターについて

社団法人 大阪小児科医会

プライマリケア部会予防接種委員会

大阪小児科医会プライマリケア部会では、この度おたふくかぜワクチン啓発ポスターを作成しました。ポスターの目的は、@おたふくかぜ罹患によって中途失聴という不可逆的な後遺症を残す危険性があるということを啓発することによって、Aおたふくかぜワクチン接種を勧奨すると共に、Bわが国においてもおたふくかぜワクチンが定期接種となることを推進するためです。

ポスターをご覧いただいたらお分かりのように、その文面は、1)ムンプス難聴に罹患した子どもの保護者の言葉2)おたふくかぜ罹患で難聴を起こす危険性があり、治療法がない3)世界ではワクチン接種によっておたふくかぜそのものがなくなり、ムンプス難聴もなくなっている4)ワクチン接種によって合併症を予防することは子どもたちの願い、という4部構成になっています。

 

1)ムンプス難聴に罹患した子どもの保護者の言葉

ムンプス難聴に罹患した子どもの保護者からは、「おたふくかぜに罹患した時、難聴のことを医師から説明されなかった」、「耳鼻咽喉科に行っても治療法がないとしか言われなかった」、「中途失聴になるということを知っていたら予防接種を受けていた」ということがよく言われます。「おたふくかぜなんて大したことのない病気と思っていました、自分の子どもの耳が聞こえなくなるまでは」というのは、少々センセーショナルに聞こえるかもしれませんが、自分の子どもがムンプス難聴で中途失聴になってしまった保護者の方々からの希望もあるということで、最終的にこのような文言にしました。

 

2)おたふくかぜに罹患すると難聴を起こす危険性があり、治療法がない

これについては、ムンプス難聴の発症率の説明が必要です。従来、2万人に1人と極めて稀な合併症であると言われてきました。しかし、最近では、従来考えられていたより高率であるという報告が散見されています。発症率の算定が困難である理由は、おたふくかぜ罹患者数、ムンプス難聴発症者数両者の正確な実数把握が難しいからです。まず、発症率算定のための分母となる実際のおたふくかぜ罹患者数が正確に把握できません。おたふくかぜは不顕性感染が30%程度もあると言われています。また、おたふくかぜ以外が原因のウイルス性耳下腺炎も少なくありません。次に、分子となる難聴発症者数も正確に把握されていません。おたふくかぜ罹患時に小児科医から難聴についての説明や対応が十分にされていなければ、片側難聴が多いこともあり子どもでは気づかれにくいでしょう。また、後に耳鼻咽喉科で難聴と診断されても、おたふくかぜ罹患から時間が経っていて関連性を確定することが困難です。

また、現在のところ効果的な治療法はなく、一旦難聴を発症したらほぼ片側(時には両側)の完全失聴まで進展し、治癒する見込みはないということは、おたふくかぜ罹患時だけでなく、ワクチン勧奨のためにも普段から告知しておく必要があります。

なお、耳の聞こえの具体的なチェック方法ですが、耳のそばで指をこする音や電話の小さな声が聞こえるかどうかで、40dB程度の難聴が発見できると言われています。おたふくかぜ発症後2週間はチェックしておくよう指示する必要があります。

 

3)世界ではワクチン接種によっておたふくかぜ罹患者が激減し、ムンプス難聴もなくなっている

わが国がワクチン後進国であるということも話しておかなければなりません。ようやく今年からMRワクチンの2回接種が始まりましたが、世界各国ではMMRワクチンの複数回接種が一般的です。その結果、おたふくかぜ罹患者が激減し、結果的にムンプス難聴もほぼ過去の病気になっています。しかし、わが国ではおたふくかぜワクチンは任意接種のままで、接種率も高々30%程度にしか過ぎず、毎年10万人以上が罹患していると考えられています。

 

4)ワクチン接種によって合併症を予防することは子どもたちの願いです

 おたふくかぜワクチンの目的は、おたふくかぜの流行を阻止することによって、難聴、髄膜炎など合併症の発生を未然に防ぐことであるということを普段から勧奨しておく必要があります。また、ワクチンを受けることは子どもの権利であるということを加味するために、「子どもたちからのお願いです」という一文を加えています。

 以上、本ポスターの趣旨をご理解いただき、貴職におかれましてもポスターの掲示をお願いいたします。そして、ムンプス難聴の啓発とおたふくかぜワクチンの接種勧奨につきましても何卒よろしくお願いいたします。